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せめぎ合う均衛に遊ぶ、モダンアートと建築。ミラノの 「プラダ財団美術館」
「芸術的な容貌の美術館」を紹介するARBAN MUSEUM。今回の訪問はイタリアのミラノにある『プラダ財団美術館』。レム・コールハース率いる建築家集団OMAが手がけ、今年4月に全ての建造物が竣成。1910年代に蒸留所として建てられた7つの既存建築物に、3つの新しい建物を組み合わせたアート複合施設である。
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保存と創造に共存はありえるか。コールハースの問い
1万9000平方メートルという敷地に、数々のプラダ商業施設を手がけてきたレム・コールハース率いるOMAが『保存と創造の共存』をテーマに設計。様々な素材とスタイルで、既存建築物と連結する「Torre」と「Podium」、そして独立形の「Cinema」を加えた。建築理論家としても著名なコールハースは、現代の都市構想において理想とされる「秩序」と、都市の発展に伴う物質経済がもたらす「混沌」という相反要素の共存を、許容する視点から積極的に論じてきた。現代の文化とアートに貢献すべく、1995年に創立されたプラダ財団がその活動の集大成として築いた美術館。そこには、コールハースが考え、プラダが具現化する「相反性の共存」が映し出されている。
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雑多な街並みに、雑多な美術館
2015年当時は建設中だったTorre(タワー)が、今年4月にデザインフェスティバルのミラノサローネ開催時期に合わせグランドオープン、これで美術館が完成となった。Torreの展示最上階まで一気に登るエレベーターはアトラクションさながらに、鮮やかなピンク色の空間で人々を非日常に落とし込む。9階建て、高さ60mのTorreの各展示フロアには大きく開口した窓があり、美術館があるミラノ南部からの各方面が望まれる。ミラノ中心部では感じられない、雑多な街の本来の様子もうかがえる。タワーの常設展示スペースは6フロア。敷地の形状に沿うくさび形フロアと長方形フロアが交互に重なり、天井の高さが1階の2.7mから最上階の8mまで次第に伸び、広がりを感じさせるのが特徴だ。
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跡地への足し算、アートの引き算
工場跡地というものが、アート・プロジェクトを展開する格好の土俵となった昨今。 そこには特徴的な産業施設の形状を評価し、活用することも視野に入っている。その風潮を意識し、歴史の古さと新しさ、直角と並行といった角度、狭さと広さといった密度などの反対要素を対峙させ、呼応させて築いたのが プラダ美術館だ、とコールハースは言う。
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変動するアートと連動する建築
例えば、敷地の中央に位置する「Cinema」の両壁には垂直に鏡面が貼られ、有機的な空、人々の動きといった風景を鋭利に写しこむ。「Podium」の階段の手すりに貼られた、オレンジ色の工事現場の保護ネット。3年前オープン直後に訪問した時は、工事未完了部分も多く
保護ネットも工事中の一部に見受けられた。しかしこれもコールハースが仕込んだ、「完成と未完成」の提示部分。変化を連想する工事ネットを象徴として用いることで、変動するアートと連動する建築を暗示しているのだ。
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イタリアの美感覚をあらゆる角度から提示
石、アルミ、ガラスが形作る「Podium」から続く「Haunted House」には24金の金箔が外側の総面に貼られ、豪奢で近寄りがたい存在感を放ちつつ、古い建物に見られるアーチ状の窓が伝統を感じさせる。
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イタリアの美感覚をあらゆる角度から提示
新しく奥に加わったTorreでは、レストランとバーもオープンし、バーのある最上階からは、まだまだ開発途上のミラノ南部を眺望できる。美術館エントランス近くのカフェ「Bar Luce」は「ホテル・ブタペスト」などの作品で知られる映画監督ウェス・アンダーソンがインテリアを手がけた。昔ながらのミラノのバールをイメージした、彼らしいデザインとなっている。白衣のコートを着たスタッフも、あたかもここが老舗で、長年勤務しているかのようなベテラン揃い。メッキ張りではないサービスを感じられる。
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保存でもなく、新しい建造物でもない。コンセプチュアル・アートという定義のない表現を、バランスのとれた雑多感で受け止め、いかようにもする場所。アートに適度な緊張感をもたらしながらも距離を保つ、これが芸術の遊び場としての理想形なのかもしれない。
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